今ではもう水が無制限にあるとは誰も思っていな
いが、日本人はず-つと水は只だと思っている。外国のレストランで働いていた日本人が、
彼等の食器の洗い方に驚いたという。洗剤で洗った食器を濯ぎもせずに布巾で拭き取って
いるからだ。彼の目にはひどい手抜き仕事に見えたのだが、「水が勿体ない。洗剤は少し
残っても問題無い」というのが答えであった。水不足の国と水の豊富な国との感覚の相違
であろう。スイスではアルプスの水を外貨獲得の手段にしている。

水には殺菌作用があるのだろうか。日本人は水の殺菌作用を信じているように思われる。
殆ど信仰心に近いという見方さえできる。こんな国は世界のどこにもないが、日本の高温
多湿の気候風土が原因であることは明らかだ。ジメジメした蒸し暑さだから水を嫌うのか
と思えばさにあらず、逆に好むというのは一見矛盾するようだが、郷に入らぱ郷に従えと
いうことか、慣れ親しむとそれを好むようになる。身体も気分もそれに適合してくる。ヨ
ーロッパに旅した日本人で「鼻の穴が乾いて困る」とこぼす人さえ居る。

道路や庭を掃除
して最後の仕上げに水打ちするのも、夏なら気温を下げる意味もあるが、水の持つ清浄作
用を信じての行為であろう。水に関連した食の要素としては、煮ながら食べる鍋物の種類の多さがある。冬などは一
ヶ月の間、毎晩違う鍋物を食べることさえ可能だ。この点も外国とは大いに異なる。ヨー
ロッパで鍋物といえばフォンデュぐらいしかない。日本の鍋物の多種多彩ぶりは、いくら
でも新しい種類の鍋物を考案できる点であろう。
「うち出来」のお鍋を客のもてなしに出す家さえある。

鍋物といえば「あつあつ」をふうふう吹いて食べるが、熱いうどん、そば、汁物も吹い
て畷り込む。これも日本独自の食べ方だ。西洋では熱い物は食べない。スープなども温か
い程度だから畷り込んだりはしない。以前、まだ日本人が海外旅行に慣れていない頃のガ
イドブックには、レストランなどで音を立てて畷り込むのはエチケットに反するから止め
て置くように、という注意書きがあったりした。温かい程度でも畷り込むのが癖になって
いる人は居る。